
PROJECT
東京防災
東京都全世帯に803万部配布。行政広報物史上最大規模の防災ブックをデザイン・編集し、防災認知を大きく広めた。グッドデザイン賞金賞。

WHY
世界で最も災害危険度が
高い都市、東京。
2011年3月11日に起きた東日本大震災によって、15,899人もの尊い命が犠牲となりました。震源地である東北地方に甚大な被害を及ぼしただけでなく、東京を含む日本中に大きな被害を与え、歴史上最大の経済的損失を人類に与えた自然災害として記録されています。
さらに、東京近郊では近い将来首都直下地震が高い確率で起こると予測されており、人口が集中する首都圏は甚大な被害を受けることが危惧されています。事実、世界の都市の自然災害総合リスク指数においても、東京は世界で最も災害危険度が高い都市と示されています。
いつか来てしまうその日のために、いま私たちにできることはなんでしょうか。
全世界のマグニチュード6以上の地震の発生数の推移

東日本大震災の規模の大きさ ※マグニチュードが1上がるとエネルギーは32倍

世界の都市の自然災害総合リスク指数

報告された災害数の傾向


災害時に備えて、常に準備をしていますか?

HOW
楽しい防災ブックを
東京都全世帯に配布する。

巨大災害に対応するには、行政や国による公助だけでは不十分です。特に大都市圏では市民一人ひとりの意識の変容や知識の習得によって、自らの身を守る自助、そして共助を生み出す観点が不可欠です。しかし、これまで公共機関が発信してきた防災情報は、コンテンツとしての魅力の乏しさや、表現力不足によるリアリティの低さから、市民の心に届いていたとは言えませんでした。
そんな中、東京都は約670万を超える全世帯に防災本を配るプロジェクトを発足しました。そして私たちが東日本大震災後に出版した「OLIVEいのちを守るハンドブック」を高く評価いただき、この防災本の原型として参考にすることになりました。そしてこの「東京防災」と名付けられた歴史に残る規模の防災ブックを、私たちはデザインおよび編集の立場で広告代理店の電通と共同で制作することになりました。


東京防災は、初版発行部数803万部、全330ページにも及ぶ、日本の行政広報物史上最大級の出版プロジェクトです。この本を東京都の全世帯に配布し、人々の災害に対する意識を変容させる、大きな挑戦でもあります。
防災はつまらないもの。市民がそんな認識のままでは、大切な情報を受け取ってくれません。そこで私たちはプロジェクトの目標として、徹底的に防災をエンターテインメントにすることを掲げました。
このプロジェクトのデザインの対象は文字通り「全世代」です。そのため、特定のターゲットに偏らずに、全世代を楽しませながらデザインエレメントをシンプルに統合することが要求されました。
そこでまず、本プロジェクトのヴィジュアルアイデンティティに、工事現場などで用いられる黄と黒のストライプを設定。いざというときにも発見しやすく、さらに東京らしい本とするため、警告色として認識されている配色を都市防災のキーアイコンに位置づけました。このように印刷色数を絞り込むことで、本自体に圧倒的な存在感を与えています。
そして、世代を超えた防災のムーブメントの醸成を目指し、さまざまなデザインのエレメントを用いた誌面づくりに取り組みました。
幼児向けのフックとなるキャラクターデザインには、ヘルメットで身を守る「防サイくん」を設定。ページの端にパラパラ漫画でキャラクターアニメーションもつけました。
誌面の編集では、楽しみながら災害のリアリティを感じられることを目指し、青年層に親しみを与える岡村優太氏のイラストによって災害を疑似体験する工夫をしました。「OLIVEいのちを守るハンドブック」に掲載したアイデアも、イラストを起こし直して40ページに渡って再収録されています。
また中年層を中心に広く支持される、かわぐちかいじ氏の漫画を巻末に掲載し、圧倒的なリアリティで災害の様子を描き出しました。高齢者に向けては、ユニバーサルデザインに配慮したUDフォントの使用によって読みやすい紙面を実現しています。
こうして、様々なデザイン手法を駆使することで全世代が満足できるエンターテインメント性を持たせた、全く新しい防災コミュニケーション「東京防災」が誕生しました。





WILL
世界で最も災害への
準備ができた市民だと
胸を張って言える
未来へ。
世界最大規模の防災出版プロジェクト「東京防災」の情報は瞬く間に拡散し、東京圏のみならず日本中にファンが生まれ、国民的なプロジェクトとなりました。
発行から数年が経過した現在でも、日本各地で大きな災害が起こるたびにSNSでこの本の情報が拡散されており、日本の防災のあり方やイメージを根底から覆したプロジェクトとして認知されています。実際にこの本の登場以降は、黄と黒をキーカラーに用いた類似デザインによる防災プロジェクトが多く見られるようになり、防災デザインのイメージを覆した存在として広く共感を集めています。
例:
私達がデザインしていない(影響を与えたかもしれない)黄色と黒の防災プロジェクト。
Google画像検索にて「防災」を検索すると、東京防災が最もヒットするだけでなく、東京防災以降はかなりの数のプロジェクトが我々のスタイルに習い、黄色と黒の色を使っている。


「東京防災」は、公共のコミュニケーションデザインが人々の意識を変え、多くの命を救うことに寄与できることを証明した、世界的にも稀有なプロジェクトになりました。防災のみならず、公共のさまざまな課題は、楽しく美しい形にリデザインできるはずです。東京防災はそのインスピレーションにもなるでしょう。
近年は、気候変動によって災害が激増しています。ハリケーンや台風、線状降水帯がもたらす局地的な大雨が増え、記録的災害が世界中で毎年のように発生しています。荒れ狂う自然が引き起こす災害と向き合って生きていかざるを得ない時代に、ますます防災デザインが求められています。
いつか巨大災害が起こる時に、かつての悲しみが繰り返されないように。この本を通じて、もしものときに自分と大切な人の命を守れる、災害に準備ができた人がひとりでも増えることを願っています。


INFORMATION
- What
- TOKYO BOUSAI
- When
- 2015
- Where
- Tokyo, Japan
- Client
- Scope
- Branding / Logo / Packaging / Edition / Book cover and inner page design / Photograph
- Award
- Good Design Award: Gold (2016)
- SDGs
CREDIT
- Art Direction
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa), DENTSU INC. (Ryosuke Sakaki)
- Graphic Design
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa, Kaori Hasegawa, Andraditya D.R.)
- Editors
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa, Kaori Hasegawa), DENTSU INC. (Ryosuke Sakaki)
- Illustration
- Yuta Okamura
- Collaboration
- DENTSU INC.
- Photo
- NOSIGNER (Kunihiko Sato)